はじめて、おむつを替えることになった。

新しいおむつを生まれたばかりの息子のおしりの下に敷く。いざ、覚悟を決めておむつを開くと、緑色がかったものがちょびっと見えるだけだった。「赤ちゃんのはかわいらしいねえ」などと余裕の笑みを見せながら「おしりナップ」という名のおしりふきで拭く。と、おしっこが四方八方に勢いよく飛びだした。

それでもまだ「あらあら、かわいいねえ」などと余裕の笑みを見せながら「おしりナップ」で拭いていると、その慢心を突くかのように、後ろに控えていた第二陣がドドドドドッと猛々しく噴きだした。まるで油田のように。

重油のように粘っこいソレは、「おしりナップ」で拭いても拭いても消えるどころか広がるばかり。しばらくすると再びおしっこが四方八方に飛びだした。先ほどよりも高くまで。

わたしの顔から余裕の笑みは消えさった。

 
うんち。おしっこ。うんち。おしっこ・・・。

 
まさか、このサイクル、エンドレスに続くのではないだろうか。しかも、その威力を増しながら。

そんなパニックに襲われ、「こんな小さな紙切れで立ちむかえるわけがないじゃないか」と、「おしりナップ」を握りしめたまま立ちつくす。すると、いい加減に耐えきれなくなった息子がぐずりはじめ、わたしの手から妻へとバトンが渡される。

 
はじめてのおむつ替えは見事、失敗に終わった。

 
わたしは持ち前の現実逃避力で、「このおしりふきが悪い!」との結論を速やかに導きだす。その八つ当たりの矛先は「ナップ」ということばに向かう。なにが「ナップ」だ、おむつ替えは、そんなに軽々しい響きのシロモノなんかじゃないぞ。まんまと騙しやがって。

パッケージに書かれている「こすらずつるんっ」とのフレーズにも「なにをなめたことぬかしてんねん」と悪態を吐く。おむつ替えには、ドドドドドッと水で一気に洗いながすかのような強力な対抗策が必要なのだ。

わたしは自分のおむつ替えスキルの低さを力強く棚にあげたまま、新たなおしりふきグッズを探しはじめる。と、不意に「洗い流せるようにふける」とのコピーが目に飛びこんできた。

 
これだ、素晴らしい!

 
わたしは「おしりナップ」へ見せつけるかのように「肌にやさしいおしりふき」という名の商品の購入ボタンをタップすると、新しいおむつに包まれて気持ちよさそうに眠る息子に「もう大丈夫だぞ。ナップの野郎は二度と現れないから」と微笑む。

息子は静かに目を開き、わたしの穏やかな笑顔をまじまじと見つめる。そして、「こんな大人にだけはならないぞ」と心に誓った。

 

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