2016年8月122日

前に進んでいるのか後ろに退がっているのか分からなくなるたびに、なぜかちょうど連絡をくれて会うことになる友人がいる。今回もわざわざ東京からやってきてくれて、東梅田近辺の焼きトン屋で呑んだ。

テーマは「エッジ・オブ・カオス」。哲学的で難解だったため詳しくは覚えていないのだが、なにもない停滞期があるからこそ、なにかが起きる活動期がやってくる。ちょうど心電図のように。あるいは「死」と「生」の繰りかえしのように。だから、前に進んでいるのか後ろに退がっているのか分からなくなっても焦ることなく、次の躍動への布石だと思っておけばいい。

最終的にそんな話へ行きついたかと思うのだが、自分に都合よく編集しているだけかもしれない。とりあえず、「エッジ・オブ・カオス」というコトバの響きだけは、妙に耳に残った。すでに成功をおさめている友人が言うことだけに説得力がある。

その後、だいぶ深くまで呑み、もうそろそろ帰ろうかというときに、「大喜利をしよう」となった。テーマは「吉本興業が、もっとおもしろくなるために改名したが、その新社名はなにか」である。隣のテーブルにいる3人のサラリーマンが審査員で、罰ゲームは負けたほうが勝ったほうに本気でビンタされるというもの。

この歳になってそんな衝撃を頭に受けたら死んでしまうかもしれない。そう思うと、ものすごい恐怖感が襲ってきて、自ずと真剣に回答を考えることになる。ここ最近、これほどまでに命がけでアイデアを考えたことなんてなかったのではないか。ビジネスにビンタは有効かもしれない。

審査員である3人のサラリーマンに声をかけると、なんと、そのうちの一人が実際に吉本興業の社員の方だった。結果、わたしが「よしもっと」なるふざけたダジャレで勝ち、友人が負けた。

わたしと友人は外に出て、わたしは友人の頬をビンタする。ただ、どうしても力を込めることができない。ビンタをされるのも嫌だが、ビンタをするのも嫌なのである。つまり、この勝負、最初からどちらも罰ゲームだったというわけだ。すると、友人が「そんなんじゃダメだ。本気でやらないと」と2発目を催促してくる。

わたしは腹をくくり、全身の力を手にこめて、わざわざ東京からやってきてくれた大切な友人の頬を振りぬいた。

友人はそのまま地面に倒れこみ、頭を抱えてしばらくうずくまっていたが、不意に立ちあがり、ふらつきながら歩きはじめる。そして、「あれ、前に進んでいるのか後ろに退がっているのか分からない。まさに、エッジ・オブ・カオスだね」と言った。つまり、友人は、次なる躍動への布石を手に入れたのである。だから、それが最期の姿になってしまうだなんて思いもしなかった。

 
2016年8月119日

久しぶりに、モ◯バーガーへ行ったら、「そんなに生きいそいじゃいかんよ」と優しくなだめてくれそうなおばあちゃんの店員さんが出てきた。

ただ、見た目とは裏腹に、「モ◯バーガーをひとつ……」と言った瞬間に目にもとまらぬ速さでレジを打ち、すぐに「やっぱりモ◯チーズバーガーで」と撤回したものの見逃してはくれず、「モ◯バーガーをキャンセルで、モ◯チーズバーガーをおひとつですね?」と、「モ◯モ◯してんじゃねえよ」といったような感じで繰りかえされてしまった。

生きいそいだほうが長生きするのかもしれない。

 
2016年8月108日

最近、ひどく落ちこんでいた。

というのも、いつものコンビニで会計を済ませると、店員が「どうぞ」とおまけのくじを引かせてくるのだ。で、箱のなかから一つを取りだすと、店員は「ああ……っと、すみません、ハズレですね」と言うわけである。

次の日も、その次の日も、またその次の日もハズレた。いつのまにか店員は、わたしが引いたくじを見ることすらせず「ハズレですね」と言うようになった。そして、実際にハズレつづけた。

本来、おまけは嬉しいはずなのに、くじを引くのがだんだん怖くなってきた。自分の運のなさを笑われているような気がしたのだ。実際、店員はわたしがレジへやってくると、くじの入った箱をどこか嬉しさをこらえて出してくるように見えた。

ある日、またしてもハズレを引いて店を出た。そして不意に、その店員の動きを外から観察してみることにした。すると、彼はなんと、わたしのあとに並んでいた客には、くじを引かせなかったのである。商品をどんなにたくさん購入したとしても。彼はわたしにだけくじを引かせて楽しんでいたのだ。きっと、箱のなかはすべてハズレにちがいない。

わたしは彼に復讐することにした。

早速、両腕をへし折ってやった。これでもう、くじを引くことはできまい。あとは「すみませんが、わたしの代わりにくじを引いてくれませんか」と奴に言うだけでいい。そして、引かれたくじを見ることすらせずに、「ああ……ハズレですね」とため息を吹きかけてやるのだ! わたしは意気揚々と、ギブスと包帯でぐるぐる巻きにされた両腕を胸に、いつものコンビニへと乗りこんだ。

商品をレジへ持っていくことができなかった。

 
2016年7月127日

忘れ物がひどいので、自宅のありとあらゆる物をカバンに詰めこむようにしている。それにも関わらず、今日は仕事道具のMacBook Airを家に忘れてきてしまった。代わりに出てきたのは、フライパンである。

ちょうど、豚バラブロックも入っていたので煮豚でも作ろうかと思ったが、煮豚につける “からし” を持ってくるのを忘れてしまった。

というか、そもそも、自分自身が見あたらなかった。家に置き忘れたのだろうか。もはや、忘れ人である。やれやれ。

 
2016年7月124日

A氏と居酒屋で久しぶりに呑むことに。甲子園球場の外へ飛んでいってしまった日以来の再会である。無事でなにより。

しばらくすると、早くも酔ったA氏が「言いにくいんですけど」と、わたしの顔を指さし、「それ、いつになったら外すんですか」と聞く。顔に手をやると、たしかに何かがある。

思いきって引っぺがすとVRメガネだった。いったい、いつからつけっぱなしだったのだろうか。顔を再び上げると、A氏は消えていた。

 
2016年7月115日

夜。初めて謎解きイベントへ。6名1チームのテーブルに並べられた数々の証拠品から、裁判の矛盾を見ぬいて、逆転無罪を勝ちとるというもの。

テーブルの上には、怪しげな柄のスマホケースを背負ったiPhoneが。何か秘密が隠されているに違いないと、他の証拠品との関連性について腕を組んで考えていたら、あっという間にタイムオーバーに。

すると、隣に座っていた方が、その怪しげな柄のスマホケースを背負ったiPhoneを自分のポケットにそっと入れるのを見てしまった。そして、イベント会場の外で取りだし、慣れた手つきでパスコードを解除すると、「今、終わったから、帰るね」と誰かにこっそり連絡を入れたのである。

謎はすべて解けた。

 
2016年7月114日

昼休み。いつものように丸亀製麺へ向かうと、公園のテニスコートで、ダースベイダーみたいな姿の淑女たちがテニスにいそしんでおられた。理由を聞くと、日焼け防止のためのサンバイザーだとおっしゃる。そして、「今日はまるで蒸発しちゃいそうな暑さですからね」と笑う。たしかに。帰り道、テニスコートにはサンバイザーとラケットしか残っていなかった。

 
2016年7月110日

VRアトラクションを体験したのち甲子園球場へ。阪神と広島の試合を見にいくも、広島の一方的展開。阪神のスコアボードにはゼロが並ぶ。ここまできれいに並んでいると阪神が勝っているようにさえ見えてくる。

隣のA氏は、終盤の大逆転を願ってコンドームのようなジェット風船に空気を吹きこむも、「おえっ」と何度もえずいて苦しそうである。どうやら、コンドームが胃のなかへと逆に膨らんでしまったようだ。

このままでは腹が裂けてしまうと焦り、空気が抜けないようにコンドームの口をつまんでいるA氏の指を無理やり引きはなしてやると、A氏は球場の外へ飛んでいってしまった。

 
2016年7月108日

自転車を走らせていたら、道ばたに停まったワンボックスカーから火のついたタバコが放りすてられ、わたしの顔面にちょうど当たった。

運転手は「あ!」と叫び声をあげ、ひたすら頭を下げてきたのだが、わたしは「いえいえ、お互い様ですから」と言って去る。その返事に運転手はなんとも不思議な表情を浮かべていた。

もしかしたら、道ばたに停まったワンボックスカーから火のついたタバコを顔面に投げかえされる日が来るとは思ってもいないのかもしれない。

 
2016年7月107日

ランチで純喫茶へ行き、ミックスフライ定食を頼んだ。

とりあえず、エビフライのしっぽだけをかじり、カニクリームコロッケとアジフライでライスをかきこむ。そして、いざ大トリのエビフライの身を食べようとしたら、逆にエビフライに食べられてしまった。

もし、しっぽを先にかじっておかなかったら、こうして抜けだすことはできなかっただろう。危なかった。まさか、こんな凶暴なオカズだったとは。

これからもエビフライが出てきたら、まっさきにしっぽをかじるように気をつけよう。

 
2016年7月101日

新たな月が始まる朝ということで、鼻毛を1本も残らず根こそぎ切ってやった。だから、その夜、妻に「鼻毛、出てるよ」と注意されたときには死にたくなった。わたしが死ぬことでしか、鼻毛の勢いを止めることなどできないかもしれないからだ。

 
2016年6月129日

ランチのときに「出会い系ってやったことありますか」と聞かれ、「いや、ないですね」と答えたら「そりゃそうか。誠実そうな顔してるし」と返され、「むしろ、出会い系サイトの文言を作る側だった」とは言えないままになってしまった。

それで、なんだか相手を騙してしまったような、なんだか自分を偽ってしまったような気分になり、「どうして言わなかったんだろう。別に恥じているわけでもないのに」とぶつぶつ言いながら道を歩いていたら、通りの向こう側にあるビルの広告看板に「ドッキリ大成功!」と書かれていてホッとした。でも、いったい、どこからどこまでがドッキリだったのだろう。

 
2016年6月126日

1泊2日で、和歌山の白浜へ初めて行ってきた。

見知らぬ場所に行くと、そこにも見知らぬ誰かが必ずいて、見知らぬ人生を送っている。あたりまえのことなのだが、いつも驚かされてしまう。

長久酒場なる居酒屋に立ちより、名物だという「ウツボ」を網焼きで食べる。皮ごとブツ切りにされた「さんま寿司」も旨かった。今までで5本の指に入る名店だったのではないか。その後は、白良浜をぶらぶら歩く。

夜は、無数のドーム型コテージが並んだエリアに泊まる。なんだか火星に来たかのような気分になった。

きっと、火星にも見知らぬ誰かがいて、見知らぬ人生を送っているのだろう。そして、「今までで5本の指に入る名店だったのではないか」などと偉そうに言っているにちがいない。

指が5本もあるかは知らない。

 
2016年6月123日

なんだか、書いたものが書きっぱなしになってしまっているなと感じる件が増えた。書いたものを最後まで丁寧に届けられている実感がないのである。なんとかしなければ。正直、これはかなりまずい。

たとえば、わたしの住むマンションには共有の巨大なゴミ処理機がある。今朝、専用の鍵を差しこんで投入口のフタを開け、ゴミを入れて閉めると、ウィーンとなにやら内部で回りはじめ、暗闇の奥へと巻きとっていった。

後ろには何人かの列ができていたので、わたしは自分の鍵を抜かずに差しこんだまま、「どうぞどうぞ」とついでに捨てさせてあげることにした。すると、みなさん「ありがとうありがとう」と笑顔で言いながら、どんどんゴミを投げこんでいく。

すると、管理人が慌てて駆けてきて、「一気に入れすぎたせいで故障したじゃないか」と怒りだす。たしかに、ウィーンという音が鳴らない。さっきまで笑顔だった住人たちも「あーあ」と、わたしを睨みつけてくる。

ただ、残念なことに、ウィーンはすぐに鳴りはじめる。管理人は「なんだ、故障じゃなかったのか」と一転して笑顔になり、住人たちも「よかったよかった」と同じく笑う。

わたしも笑顔を振りまきながら「どうぞどうぞ」と言うと、みなさん「ありがとうありがとう」と笑顔で言いながら、どんどんゴミ処理機のなかへ入っていった。管理人も。ウィーン。バキバキバキのゴリゴリゴリ。

そう、バキバキバキのゴリゴリゴリなのである。

 
2016年6月122日

仕事でUSJを視察。小学生のときから集団行動能力がなさすぎると担任に呆れられてきた身なので、他のメンバーとはぐれないように、入園前の行列で目の前にいた女性の顔をしっかりと覚えておくことにする。

入場してしばらく経ったころ、その女性はまったく関係ないグループの人なのだと気づく。もう手遅れだ。完全にはぐれてしまった。あたふたしていると、その女性も消えてしまった。というか、彼女の顔を覚えていなかった。そもそも、わたしは誰と来たんだっけ。仕方なく、ぶらぶらと独りで歩き、ウォーターワールドなる物騒なところへ入る。

座る場所が悪かったのか、演者たちがなにを言っているのかがうまく聞きとれなかった。まったくストーリーが分からないなかで、目の前で爆薬が派手に鳴りひびき、命がけのスタントショーが繰りひろげられ、しまいには飛行機が壁を突きやぶって飛びだしてくる。最高だった。おもしろさにコトバなんていらないのかもしれない。なんてこった。

 
2016年6月120日

昼は、かき揚げがのったうどんを毎日のように食べている。

かき揚げはそれはそれは巨大で、毎回、差しこんだ割り箸がポキリと折れてしまうほどだ。あまりにも硬い。もしかして、具材に釘でも混じっているのではないか。念のため、店員に聞いてみる。

すると、「釘ではなく骨です」と言う。「え、玉ねぎの骨ですか」と聞くと、「いえ、かき揚げ自体の骨です」と言う。そして、「生のかき揚げを骨の髄までしっかりと丸揚げにしているので、思いきり噛めば食べられますよ。コラーゲンたっぷりで美味です」とおすすめされる。

なるほど。かき揚げに骨なんてあったのか。知らなかった。ひとまず「ごめんなさい」と謝ってから席に戻り、思いきり噛んでみる。たしかに、美味だった。特に、かき揚げの首あたりの骨が。

 
2016年6月119日

森村泰昌展のなかを通りすぎ、大阪駅のビルへ。珍しく、服を買いに行く。

店員が話しかけてきたので、口をおさえて逃げるように走って上着を2枚ほど適当に手に取り、レジで会計を済ませる。そのままの勢いで隣の帽子屋に入ると、うってかわって店員がまったく話しかけてこなかったので、ハットをゆっくり選んでからレジへ。支払いを済ませると、店員が堰を切ったように話しはじめる。やられた。

要は「帽子のなかに汗を吸いとるシートも貼ったほうがいいから1,000円で買え」とのこと。そのシートを貼らないと夏場の帽子は傷み、一瞬で使いものにならなくなると言う。

いや、そこまで商品の命運を握る重要なものならば、最初から帽子に縫いつけておくべきなのではないか。そんなことをついつい呟くと、その店員は突然、叫びながら店を飛びだし、エスカレーターを駆けのぼっていった。

しばらくすると館内に火災報知器が鳴りひびき、「19階で火事です」との自動音声メッセージが繰りかえされる。慌てて外に出て19階あたりを見あげると、火も煙もない。かわりに、先ほどの店員が意味不明な言葉を叫びながら窓枠に立ち、今にも飛びおりようと下界の人々を威嚇している。

わたしは彼女が頭のうえに落ちてきたときに備えて、買ったばかりのハットをかぶる。これでもう大丈夫だ。ありがとう。

 
2016年6月118日

朝から、ひたすら洗濯をする。

洗濯物の圧倒的な量からするに、妻と二人で暮らしているはずのこの家には、あと3人くらいは誰かが住んでいるようだ。いつかお会いできたら、「靴下をひっくり返して脱がないでほしい」とだけは伝えようと思う。

夜は、仕事で梅田の居酒屋へ。鱧が売りの店らしく、プライベートでは絶対に頼まないだろう価格の「鱧づくし」なる大皿をいただく。店員さんが「梅肉ソースをつけて食べてください」と言うので、梅肉ソースをつけたら梅肉ソースの味しかしなくなり、鱧を食べているのかギザギザのコンドームを食べているのか分からなくなる。

目のまえには、業界で知らない人はいないだろうアーティストの方がおり、とある企画で使用するコンセプト文の案を見せる。書いている途中から楽しくなり、異様に長くなってしまったので不安だったのだが、あえてそのまま出してみた。結果、「おもしろいです。これでいきましょう」と言っていただき、ひどく恐縮してしまう。ますます、鱧を食べているのかギザギザのコンドームを食べているのかが分からなくなる。

しばらくすると、「なぜ、音楽は同じ曲で何度でも盛りあがれるのに、笑いは同じネタで何度でも盛りあがれないのか」という話題に。その方は「笑いは消えますからね」とひとことだけ言った。

なるほど。さきほど「おもしろい」と言ってもらえたことをいつまでも噛みしめていたらダメだな、と気づく。そんな暇があるならば、次の作品を書かなければ。すると、なぜか味覚も正常に戻り、梅肉ソースの下から素材本来の味がしっかりと染みだしてきた。

ゴムの味だった。

 
2016年6月117日

身体がむくんでいる感じがしんどいので、少し早く起きて、朝から半身浴を試してみた。少しだけスッキリした気がするし、中年男の半身浴姿ほど醜い朝の光景はないことも知れたし、よかった。

酒の席が続いたのでそれがだるさの原因かなとも思ったのだが、大阪の道路に停車した無数の車たちを避けながら自転車でオフィスへ向かっているときにピンと来た。この路上駐車がストレスとなり、身体に害を及ぼしているにちがいない。

早速、路上に停められたポルシェが目のまえに見えてきた。点滅するハザードが「ちょっとだけならいいでしょうが」と調子に乗っている。腹が立ったので、会社へ「遅刻する」との連絡を入れ、自転車を置き、3時間ほどそこで待ってみた。案の定、運転手が現れる気配はない。

まったく、警察は何をやっているんだ。路上に停められたものなんて、片っぱしから踏みつぶしてしまえばいいんだ。そう憤慨して振りむくと、わたしの自転車がぺちゃんこに潰れていた。

 
2016年6月116日

雨。いつもなら自転車通勤を諦めて電車で向かうのだが、なんだか腹が立った。別に濡れていけばいいじゃないかと。そもそも、どうして傘をささなきゃいけないのかと。服が汚れるわけでも臭くなるわけでもない。髪の毛も坊主にしてしまったので、すぐに乾く。

というわけで、自転車で無事にオフィスへ到着。「なんだ。人生に傘なんていらなかったんだな」と思いつつトイレに入ると、タンクが故障しているのか、汚水が止まらずに流れている。

待てよ。もしかしたら、この便器から街へと降りそそいでいるのではないか。まさかとは思いつつも、びしょ濡れの服を嗅いでみる。

電車で帰ることにした。

 
2016年6月115日

妻が、新しいパンツとズボンをタンスから出してくれた。なるほど。その手があったか。これで安心だ。

ただ、最近はどうも体調がよくない。仕事の流れはひと段落ついたタイミングなのだが、犠牲になった無数のアイデアたちの呪いだろうか。

セブンイレブンへ行き、カリカリ梅を買う。オフィスに早く戻ってチュパチュパしよう。すっぱさを吸って気分をスッキリさせるのだ。身体が重くて仕方ない。

誰もいないエレベーターに乗ると定員オーバーの警告音が鳴った。積載量を見ると「600kg」とある。わたしの体重は約70kg。重く見積もって100kgとしても、あと500kgも足りない。

やはり、アイデアの霊たちが肩に重くのしかかっているのだろうか。いや、おかしい。行きのエレベーターでは警告音は鳴らなかったのだ。

もしや、カリカリ梅か。左手の袋のなかにはカリカリ梅が5粒。1粒あたり100kgとすれば計算が合う。やはり。

 
2016年6月114日

翌日、ショッピングビルへ問いあわせると、誰も出なかった。

もう、パンツとズボンも誰かが持ちかえってしまったのかもしれない。もしかしたら、警備員もビル自体も。きっと、どこからどこまでが「Take Free」なのかが分かりづらかったのだろう。

ただ、下半身をモロ出しにして生きていくことになるのは、ちょっと困る。今夜はとある雑誌のスチール撮影なのだ。

仕方なく、パンツとズボンがないことを伝えると、「最悪、ジャケットがあればいい」とのこと。なんだ。よかった。

無事に撮影を終えることができた。

 
2016年6月112日

仕事で神戸へ。とあるショッピングビルに入り、我慢できずに用を足す。

人影はなく、おしゃれな間接ライトで照らされた空間は、おしりを拭くには薄暗すぎるようだ。拭いても拭いても、ちゃんと拭ききれたのかを目視で確認することができない。だからといって、ポケットティッシュではなく素手で確かめる勇気もない。長年の勘だけを頼りに「拭ききった」と信じてズボンを履くのも怖い。

そもそも、こんなに薄暗かったら、ビルの入り口に放たれたわたしの糞に気づかずに誰かが踏んでしまう危険性だってあるじゃないか。そこで、ちょうど通りかかった警備員にクレームを入れることにする。すると、「このビルにはめったに誰もこないから。心配しなくていい」とのこと。「気にすることなく、そのままにしておいてください」と言って聞かない。

仕方なく、いったんは立ちさったのだが、やはり気になり戻ってみることに。すると、警備員がわたしの糞に「Take Free」と書かれた旗を突きさしているところだった。

なるほど。これは名案である。せっかくなので、わたしもその糞を半分だけ、持ちかえらせていただくことにした。旗を倒さないように、そっと。

帰宅後、肝心のパンツとズボンのほうをビルの入り口に脱ぎわすれてきてしまったことに気づく。

 
2016年6月111日

美容院へ行って「今日はお仕事、お休みなんですか」だとか「このあと、どこかへお出かけになられるんですか」だとか、鋭い刃物で自分の身体の一部を切りきざもうとしてくる見知らぬ人間に聞かれるのがどうしても嫌で、妻に髪を切ってもらうことにした。

京橋のドン・キホーテでバリカンを購入したのち自宅へ。夏なので、側頭部を剃りあげた「ツーブロック」なる髪型にしてもらうことに。結果は、もちろん失敗である。

頭のかたちが面積を算出するのに手を焼きそうな歪んだ台形となったため、仕方なくノーブロック(坊主頭)にすることにした。これなら「半径×半径×3.14」と格段に計算しやくなるはずだ。ひと安心である。