2018年6月8日(金)

朝から『ルノアール 渋谷宮下公園店』へ。すると、株式会社一へメッセージをくれて、昼にはじめて会うことになっていたプロデュース会社を経営するKさんから「場所はフリーマンカフェにしましょう」とのメッセージが届く。なんと、隣の店じゃないか。この広い渋谷でなんて奇遇なのだろう。

Kさんは見た目からしてパワフルな方だった。聞けば、わたしと生まれた年も月も同じなのだが、エネルギーがまったく違っていた。自分のやりたいことがいくつも同時に走っていて話題が尽きなかった。そのなかで「地球少年として昆虫食の魅力を発信している」という篠原祐太さんの話になった。「地球が大好きすぎる」という自分の根底にある本質を「昆虫食」という媒体を通して世の中へ発信しているスタイルは、なにか参考になりそうな気がした。

夕方から、神楽坂の『かもめブックス』に併設されたカフェ『ウィークエンダーズコーヒー オール ライト』へ。その後、『Rockaku』さんのオフィスへはじめて出向き、社員さんたちも含めて『神楽坂 椿々(チンチン)』で呑むことに。「初対面がチンチンってすごいな」と思ったが、人間は第一印象が大切らしいので言わないでおいた。

途中から、コピーライターではなく、あえて「バーバルデザイナー」と名乗るSさんも合流。帰り道に二人で話しながら、「コピーライターをやるのではなく、コピーライターとしてなにをやるのかが大切になるな」と感じた。

2018年6月7日(木)

東京出張2日目。昨夜に話した「自分の肩書きを自由に考えるとしたら」というお題を朝から考える。こんなときは言葉やコピーにまったく興味のない妻と話すのが吉で、1時間ほど西日暮里のホームで電話をすると、案の定、方向性のようなものがうっすらと見えてきた。

お昼は、宣伝会議賞で出会ったフリーのデザイナーのSさんと、最近、『孤独のグルメ』にも登場したらしい三河島の麻婆豆腐専門店『眞実一路』へ。ハイボールに山椒が振られていて、これが絶妙だった。

北千住に住んでおきながら知らなかったのだが、三河島は歴史あるコリアンタウンのようで、食後は異国情緒漂う街をしばらく案内していただき、『カフェテラス ウイーン』へ。レトロな麻雀のテーブルゲーム機を使用したテーブルを挟んで仕事の話をするというのも妙な感じで面白い。Sさんは、周りの好きな人たちとの縁を大切に紡ぎながら生きている方だった。好きな人たちとだからこそ好きな仕事を楽しくできるというのはシンプルでとてもいい。

夜は、以前の職場でお世話になった上司のKさんと『神保町食肉センター』へ。以前から名前は知っていたが初めての来店。Kさんは相変わらず信じられないくらいに律儀なかたで、わたしのほうが13歳ほど年下にも関わらず、ロースターの前を譲ることなく、最初から最後まで肉を焼いてくれた。肉の焼きかたもじっくりで、じっくりすぎて焦げてしまっているものもあり、「Kさんらしいなあ」と笑ってしまった。

そんなじっくりすぎるKさんと、今後の人生の「動き」について語るのは面白い。結果、「年齢」で人生を考えないほうがいいとの話になった。年齢というものは絶対的なものだからこそ信用すべきではないと思う。たとえば、「35歳までに◯◯するぞ」と宣言すれば明確な目標を立てた気分になるが、「なぜ35歳なのか」という根拠を聞くと意外に脆い。

仮に「だいたい35歳くらいまでに◯◯するのが普通でしょ」といった気持ちが裏にあるとすれば、それはあくまで他者一般との比較に過ぎない。他者との比較は、焦りや嫉妬や絶望といったイヤな感情を生むだけだ。わたしも実際、「30歳までに作家になるぞ」と根拠なき目標を掲げていたせいで死にかけたことがある。

誰になんと言われようが自分の人生なんだし、絶対的な年齢ではなく、「今の自分からすると、まあ、3年後くらいまでには◯◯したいな」などと、相対的な自分のペースで考えていけば心は軽やかになるし、何歳になろうが自分の気持ちに正直に生きることができるのではないか。

そんなふうに「年齢なんて関係ないですからね」と熱く語るうちに、Kさんに肉を焼かせてしまったこともいつのまにか正当化されていたのでホッとした。

2018年6月6日(水)

朝4時半起きで品川へ。午前中は、とある開発会社でコーポレートスローガンの打ち合わせ。これまではオンライン会議だったが、実際に直接会って会社の雰囲気を感じてみると、ほぼほぼ固まってきていた現状のコピーよりもっと攻められるのではないかと感じた。なので、いったん今のコピーを思いきって捨て、改めて考えさせてもらうことに。これまで一緒に積みあげてきた作業をゼロに戻すのは正直、心が痛みもするけれど、まったくあたらしいコピーを書ける楽しみのほうが大きい。

午後は渋谷へ。作業場を探して街を歩いていたら例の「喫茶室」の看板が現れて衝撃を受けた。そうだ。東京には「ルノアール」があるんだった。そして、大阪にはルノアールがないことに今さらながら気づく。電源完備の懐かしい空間で、とあるメーカーのSNSキャンペーンのコピーを仕上げる。1,000本ほどのコピーを使用することになり、最初の100本の締め切りが今日だったので提出。短納期だったせいか、途中で自分がAIにでもなったかのような錯覚を覚えたけれど、最後の最後まで人間として抵抗してブラッシュアップする経験は興味深かった。

夕方からは、とあるUIデザインで最先端を突っ走っている企業へ。以前の職場の先輩と、表現するデザインではなく、ユーザーのデータや数値効果をもとに設計するデザインについて話す。その中で、「コピー」を「ライティング」するのではなく、「デザイン(設計)」する視点も大切なのではないかとの議題があがる。以前に、コピーライターの先輩と「コピーライターというかバーバルデザイナーだよね」みたいな話をしたことを思いだした。

夜は、株式会社一を立ちあげるきっかけになったDとKと三人で呑む。お互いの肩書きをどうするかという話になり、二人の自由な切り口に驚いた。せっかく会社をつくるのだから「コピーライター」という枠に縛られすぎる必要はないのだということに気づかされる。「東京にいるあいだになにかヒントをつかみたいところだな」としばらく言葉を発さずに考えこんでいたら、いつのまにかDが店から消えていて、そのまま戻ってこない。

仕方なくKと、東京にいるあいだ宿泊させてもらうDのマンションへ向けて、コンビニで買ったチューハイを片手に歩く。すると、Dから「あれ、いない。帰った?」とのメッセージが。こっちのセリフである。再び合流して、三人でDのマンションへ。そのままKも泊まることになり、なぜか『ストV』で黙々と対戦。しばらくすると、それぞれピアノを弾いたりサイトをつくったり将棋をやったりシャワーを浴びたりと、特に会話を交わすこともなく自由に過ごし、いつしか自分のタイミングで床で寝る。朝起きると、すでにKはおらず、わたしもパンツ姿で寝ているDを横目に部屋を出る。なんだか分からないが、とてもいい距離感だった。

2018年6月4日(月)

東京出張に備えて髪でも切るかと、いつもの美容院へ。美容師さんに話しかけられるのがどうしてもイヤで、サイレント美容室なるものがこの世に生まれるまでは妻に切ってもらおうと決めていたのだが、一言もしゃべりかけてこない稀少な美容師さんが大阪の京橋にいると聞きつけ、ここ最近は通っている。

「月曜の昼間だし空いているだろう。独立した特権かな」と調子に乗ってぬかしていたら、奥様方で大混雑しているらしく美容師さんも大慌て。いつもの半分くらいの時間でサクッと済まされて終了すると、鏡のまえにはなんだか亀の頭のようなわたしが座っている。カットの最中に目をつむり、「早く出せと言っておきながら、なかなかプレイをちゃんと始めない場末のヘルスみたいな案件ってよくあるよな」などと、卑猥な悲嘆に暮れていたバチでも当たったのだろうか。

まるで周囲から陰部を隠すかのように、四方八方より鏡を素早く当てながら「大丈夫でしょうか……?」と申し訳なさそうに美容師さんが仕上がりをたずねる。これ以上、奥様方に恥部を晒すわけにもいかず、「大丈夫です! 大丈夫です!」と連呼して即時退散。帰宅すると、妻が「なんだかイチョウみたいだね」と言う。ああ、なるほど。キトウじゃなくてイチョウか。それならいいね。韻も踏んでるし。なわけない。

さっそく、破廉恥に膨らむ両サイドの髪を妻にバリカンで刈ってもらうことに。「ひとまず、15ミリからいってみよう」と妻がバリカンを入れると、風呂場に「あっ」と短い叫び声が響いた。きっと良くないことが起きたんだろうなと思いつつ鏡を見ると、案の定、左サイドを5センチほど駆けぬけたバリカンに追いすがるように、わたしの頭皮が露わになっている。

どうやら、バリカン本体の目盛りは15ミリに合わせたものの、肝心の長さを調整するアタッチメントをつけわすれたままダイレクトに刈ってしまったらしい。「つまり、0ミリだね」とわたしが肩を落とすと、「ちゃんと前を向いて。取り返しのつかないことになるから」と妻がわたしの肩を叩く。「すでに取り返しのつかないことになっているじゃないか」と力なく笑うと、「周りを3ミリで刈りなおせばハゲてるところもなんとか隠せるかも」と言う。なるほど。ハゲ。

「いっそのこと、もう0ミリで両サイドとも刈っちゃっていいよ」とわたしがヤケになると、「両サイドともツルツルになっていいの?」と叱咤激励される。たしかに。両サイドだけ出家した半端な男が大都会東京で新たな案件を手にできるわけがない。どんな悲劇的な状況においても常に現実的な判断を冷静にできるところが妻のスゴいところだ。

結局、3ミリで両サイドを刈りなおすと、うまいこと僧侶的な部分が紛れてくれた。よく見ると出家している感じはちょっぴり透けてしまうけれど、それはそれで御利益があっていいかもしれない。どうか、素敵な案件に恵まれますように。

2018年6月2日(土)

朝起きると、右足に激痛が走り、まともに歩けなかった。よく見れば、親指にトゲが。安らかに寝ているあいだに右足の親指にトゲが刺さるだなんて事象がこの世に起きえるだろうか。

「まさか」と思いながら妻の顔を見るも、特にいつもと変わった様子はない。試しに「右足の親指にトゲが刺さっているみたい」と告げると、血相を変えて薬箱から針を取ってきてくれた。「やはり、妻の仕業ではなさそうだな」とホッとしつつ、針の先でトゲをつついて取ると、激しい痛みもウソのように消えた。

討ちとったトゲをさらし首のように手のひらにのせてやると、目を細めなければ見えないほどにちいさい。「こんなちっぽけな異物のせいで前に進めなくなるくらい人間は脆い生き物なのだから、自分とは異なる価値観も受けいれて生きていこうだなんてのはきれいごとにすぎないんだろうな」と確信した。

まあ、そんなことは「ひゃくいちさんってコピーライターっぽくないですよね。いや、良い意味で、良い意味で。それはそれでアリだなと僕は思ってますけどね」と蟻を見下ろすように嗤う、コピーライターの輝かしき王道をゆく若きコピーライターたちの目を見れば一目瞭然である。

ただ、異物たちが集まってひとつのコミュニティのようなものを築くことができれば、そこでは異物も異物ではなくなるのかもしれない。たとえば、コピーライターっぽくないコピーライターたちによる、「東京コピーライターズクラブ」ならぬ「東京コピーライターっぽくないズクラブ」である。

そんなクソの足しにもならないようなことを考えながら、開いたままにしていた手のひらを再び見やると、さっきのトゲも呆れたようにどこかへ消えていて、右足の親指がまたズキズキと痛みはじめた。