2018年6月4日(月)

東京出張に備えて髪でも切るかと、いつもの美容院へ。美容師さんに話しかけられるのがどうしてもイヤで、サイレント美容室なるものがこの世に生まれるまでは妻に切ってもらおうと決めていたのだが、一言もしゃべりかけてこない稀少な美容師さんが大阪の京橋にいると聞きつけ、ここ最近は通っている。

「月曜の昼間だし空いているだろう。独立した特権かな」と調子に乗ってぬかしていたら、奥様方で大混雑しているらしく美容師さんも大慌て。いつもの半分くらいの時間でサクッと済まされて終了すると、鏡のまえにはなんだか亀の頭のようなわたしが座っている。カットの最中に目をつむり、「早く出せと言っておきながら、なかなかプレイをちゃんと始めない場末のヘルスみたいな案件ってよくあるよな」などと、卑猥な悲嘆に暮れていたバチでも当たったのだろうか。

まるで周囲から陰部を隠すかのように、四方八方より鏡を素早く当てながら「大丈夫でしょうか……?」と申し訳なさそうに美容師さんが仕上がりをたずねる。これ以上、奥様方に恥部を晒すわけにもいかず、「大丈夫です! 大丈夫です!」と連呼して即時退散。帰宅すると、妻が「なんだかイチョウみたいだね」と言う。ああ、なるほど。キトウじゃなくてイチョウか。それならいいね。韻も踏んでるし。なわけない。

さっそく、破廉恥に膨らむ両サイドの髪を妻にバリカンで刈ってもらうことに。「ひとまず、15ミリからいってみよう」と妻がバリカンを入れると、風呂場に「あっ」と短い叫び声が響いた。きっと良くないことが起きたんだろうなと思いつつ鏡を見ると、案の定、左サイドを5センチほど駆けぬけたバリカンに追いすがるように、わたしの頭皮が露わになっている。

どうやら、バリカン本体の目盛りは15ミリに合わせたものの、肝心の長さを調整するアタッチメントをつけわすれたままダイレクトに刈ってしまったらしい。「つまり、0ミリだね」とわたしが肩を落とすと、「ちゃんと前を向いて。取り返しのつかないことになるから」と妻がわたしの肩を叩く。「すでに取り返しのつかないことになっているじゃないか」と力なく笑うと、「周りを3ミリで刈りなおせばハゲてるところもなんとか隠せるかも」と言う。なるほど。ハゲ。

「いっそのこと、もう0ミリで両サイドとも刈っちゃっていいよ」とわたしがヤケになると、「両サイドともツルツルになっていいの?」と叱咤激励される。たしかに。両サイドだけ出家した半端な男が大都会東京で新たな案件を手にできるわけがない。どんな悲劇的な状況においても常に現実的な判断を冷静にできるところが妻のスゴいところだ。

結局、3ミリで両サイドを刈りなおすと、うまいこと僧侶的な部分が紛れてくれた。よく見ると出家している感じはちょっぴり透けてしまうけれど、それはそれで御利益があっていいかもしれない。どうか、素敵な案件に恵まれますように。